隠された薔薇  ギイ様作品


正式にハルの主人となった章夫は、ハルを特別室から個室に移し、一緒に泊り込んですべての世話をしていた。

 俺はこの3日ほど、朝に一度様子を見に顔を出す程度になっていた。

 中庭を歩いていると、携帯が鳴る。
「悩める犬の救世主。エンリケです」

「お前さ〜毎日よく違ったセリフが出てくるよな」
 電話はハルのアクトーレスからだった。

「なんだ?ハルに何かあったか?」

「あぁ、ちょっと手伝って欲しい事があるから、ハルの病室に来てくれ」



 病室に着くと、レントゲンフィルムを渡された。

「今朝撮ったハルの腹部のレントゲンだ。少し食べられるようになったが腸の動きが悪くて、ここ何日も便が出てない」

「あぁ、そうだな。量としちゃそれほど多くはないが、腸が動いてないならまだしばらく出てこないかもな」

「で、診察したドクターの指示で浣腸をする事になった」
 アクトーレスのその言葉に、ハルが布団に逃げ込んだ。

「それを俺に手伝えと?」
 俺は布団の上から、ハルをあやすようにトントンと軽くたたく。

「調教の時の恐怖心が全然抜けてないから、こうして嫌がってるのを無理やりすると、またひきつけを起こしかねないって。それでドクターがエンリケに立ち合わせろって」

「あー、なるほどな・・・ハル?」
 布団の中でイヤイヤと体を揺するハルに声をかける。

「嫌なのはわかるが、このままだとマズイ。ちゃんと出すもの出しとかないと病気になっちまう」

「春樹・・」
 章夫も心配そうにハルに声をかける。

「とりあえず、アキオには出ててもらおうかな」

「えっ、俺も手伝います」

「いや・・ハルは見られたくないんじゃないか」

「あぁ、そう・・ですね。わかりました。春樹、俺は外で待ってるから」
 そう言って、章夫は部屋を出た。

「お前もいいよ。アクトーレスが居ると、それこそ調教を思い出すだろ」

「えっ、1人で大丈夫か?」

「もちろん」
 俺は親指を立て、任せろとニカッと笑って見せた。


「ハル〜」
 2人が部屋を出た後、俺はツンツンとハルを突付く。

「いやだ・・」
 小さな声が布団の中から聞こえた。

「お〜返事があるのはなかなか新鮮だな。ずっと『アキ』って言葉しか聞いたことがなかったからな」

 その言葉でハルが布団から顔だけ覗かせる。

「久しぶりに俺と風呂に入るか。ほら、おいで」
 俺は布団ごと、カバッとハルを抱き上げた。

「ちょっと下ろして。ヤダ!」

 暴れるハルをものともせず、俺は風呂場に移動し脱衣所に下ろした。

「ハル、これは調教じゃない。水遊びで辛い思いをしたんだろうけど、今からする浣腸はプレイじゃない。れっきとした医療行為として行うものだ。腹の中にいつまでも便がたまってるのは本当にマズイんだ。わかるな?」

 ハルの両頬をしっかり挟み、目を見て必要な事だと言い聞かせる。

「わかる・・でも・・でもやっぱり怖いんだ」
 両腕で布団を握り締め、苦しそうに目を閉じる。

「怖いなら、アキオに付き添ってもらうか?」

「それはヤダ!絶対に見られたくない」

「だったらここで頑張るしかない。俺が付いててやる」
 外堀を埋められていく感じに、ハルは怖いと泣き出した。

「やだ・・・やっ」

 まだ感情のコントロールが不安定なハルは、子供のようにワァーと声を上げて泣く。

「そうだな、嫌だな。いっぱい怖い思いをしたんだもんな」
 俺はハルの頭を胸に抱き、背中を撫でる。

「もう・・嫌だ。・・もう帰りたい」

「そうだ。アキオと2人で日本に帰れる」

 ハルがずっと心に溜め込んでいた言葉を引き出す。

「浣腸しないと、帰れない?」
 不安そうにハルが俺を見上げる。

「病気になったら、いつまでもここに居なきゃなんないんじゃないか?」

「そんな・・」

「このまま日本に帰って、向こうでアキオに浣腸してもらうか?」

「それはヤダ」

「だったらどうする?ここでするのも嫌。日本でするのも嫌。でも病気になってここに居るのも嫌」

「・・・もう、殺して」

「コラ!浣腸くらいで死ぬなんて言うな。死ぬ覚悟があるなら浣腸しろ。お前が死ぬって事はアキオを悲しませるって事だぞ・・わかってんのか」

「ごめんなさい・・」
 浣腸から逃れたい一心で、訳もわからず言った言葉にうな垂れる。

「どうする?俺が嫌なら他の奴を呼んでやる。アクトーレスでも、ドクターでも、看護師でも、アキオでも」
 ハルは弱々しく首を振り、俺の白衣の端を握る。

「エンリケがいい・・」

「よし決まりだ。泣き叫んでも、俺を殴ってもいい。でも気持ちだけはしっかり保て。絶対に飛ぶな。元気になって、ここを退院してアキオと日本に帰るんだ」

「・・・うん」

「よし、来い」
 俺はハルを抱き寄せ裸にすると風呂場に入った。


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